インタビュー記事      

SHIROYAMA HOTEL kagoshima×CPQ

循環こそ新しいラグジュアリー ― SHIROYAMA HOTEL kagsohimaの挑戦

「持続可能性は、ホテルにとって新しいラグジュアリーです」。鹿児島市を代表する城山ホテル鹿児島が進めるサステナビリティの取り組みは、時代の要請や環境対応を超えて、ブランドを未来につなぐ大切な要素となりつつあります。食品残渣の削減、館内で使用した食器や美術品のリユース、ゲストに新たな体験を提供する環境啓発イベント、海外ゲストがホテルに求める循環への貢献――そこには、矢野隆一社長の未来を見据えた決断と、現場を支える社員の挑戦がありました。

代表取締役社長 矢野隆一

始まりは「解決できない課題」との出会い

城山ホテル鹿児島が掲げるのは、ゲストに非日常の体験を提供すること。しかしそこに「SDGs」「サステナビリティ」といった言葉を持ち込むと、どうしても日常的で現実的な響きになり、従来の「ホテルらしさ」とは相反してしまうのではないか――現場も当初はそうした葛藤を抱えていたといいます。

「ホテルという非日常を提供する世界で、SDGsやサステナビリティをどのように実現していけるのか。例えば、エコやリサイクルとなると一気に日常に引き戻されるような気がして…。一方で、これは必ず取り組まなければならない。鹿児島を代表するホテルとして避けては通れない課題だと感じていました」と矢野社長。

これは城山ホテル鹿児島だけの課題ではありません。食品残渣、長年使ってきた食器や美術品、そしてコロナ禍で導入した大量のアクリル板――ホテルの裏側には常に処分に困る「廃棄品」「使用済み」が存在していたのです。

矢野社長は当時を次のように振り返ります。

「どう対処すればいいのか頭を悩ませていました。けれども、春木社長(サーキュラーパーク九州、以下CPQ)と出会い、サーキュラーエコノミーという考え方を知った瞬間、『これだ』と思いました。ホテルの課題を地域で解決し、同時に地域に貢献できる。迷う理由はありませんでした」。

この出会いをきっかけに、城山ホテル鹿児島はCPQと提携。食品残渣の堆肥化実証実験が動き出しました。「社長が前向きに後押ししてくださるからこそ、現場も安心して挑戦できます」とスタッフは口を揃えます。トップの理解があるからこそ、新しい発想を実行に移せるのです。実際に矢野社長は部下を伴い、群馬県にあるナカダイホールディングスの現場を自ら視察しました。視察後には「サーキュラーエコノミーは理念ではなく現場で動いているものだと実感しました。どう仕分けし、どのように新たな価値へと変えていくのか。現場を見て、私たちも本腰を入れて取り組む覚悟が固まりました」と、自身の変化を語ります。

CPQは九州電力とナカダイホールディングスの合弁会社。この視察は、提携を単なる契約にとどめず、最先端を体感し自社の取り組みを加速させたいという矢野社長の意思を象徴するものでした。

「mottECO(モッテコ)」が開く世界

ホテルの挑戦の中で、特に注目されるのが食品残渣を減らす取り組みです。現在、城山ホテル鹿児島では、環境省・農林水産省が提唱し、飲食業・宿泊業などの民間企業が業種を超えて一体となったコンソーシアムが推進する「mottECO」を導入。食べ残した料理を専用容器で持ち帰れる仕組みを整えました。

「mottECOは、お客様にとっては“食べきれなかった料理を楽しめる”喜び。ホテルにとっては食品ロス削減。社会にとっては資源の有効活用。まさに三方良しの仕組みだと感じます」。宴会やアフタヌーンティーで食べきれなかった料理をお客様が手にして帰る姿は、ホテルの新しい風景となりつつあります。当初は「ホテルで持ち帰りができるの?」と意外に思われた方もいましたが、全体的に好評をいただいています。食べ物を無駄にせず、家で改めて楽しんでいただけることが循環の第一歩。トラブルもなく定着し、満足度も高いので、現場も誇りを持って取り組めています。

mottECO持ち帰り容器

コラム:mottECOとは?

「mottECO(モッテコ)」は、「もっとエコ」と「持って帰ろう」を掛け合わせた言葉で、外食時に食べきれなかった料理を持ち帰り、食品ロスを減らそうという活動です。

世界を見れば、持ち帰り文化は各地に存在します。中国では「打包(ターバオ)」と呼ばれ日常的に利用され、かつて日本でも宴席の料理を「折詰」として持ち帰る習慣がありました。アメリカでは「ドギーバッグ(doggy bag)」という言葉が生まれ、食べ残しを犬に与えるという“体裁”を借りながら、実際には自分たちで後から食べる口実として普及しました。

日本では近年、食中毒への懸念から持ち帰り文化が消えつつありましたが、食品ロス削減策として環境省・消費者庁・農林水産省が協力し、専用ロゴやルール整備を推進。火の通った料理に限定し、お客様の自己責任で持ち帰ることを前提に「mottECO」を国として推奨しています。

さらに2024年には城山ホテル鹿児島、グリーナー、山元酒造、鹿児島大学、CPQの5者で協定を結び、堆肥化・飼料化の実証にも挑戦しました。食品残渣に米ぬかや焼酎粕、ビール酵母を組み合わせて発酵を促進し、従来手法より大幅に短縮した堆肥化の試みは、地域の多様なステークホルダーが参画する循環モデルとして注目されました。

実証は一定の成果を収めましたが、実際の事業化には大規模な装置導入などコスト面での課題が残ります。堆肥が市場で安定的に販売され、収支が見込める段階に至れば、設備投資へと舵を切ることができます。今回の実証実験は「理念を現場でどう形にするか」を確かめる大切な一歩でした。

リユースで広がる新しい接点

城山ホテル鹿児島では、使用済みの食器や美術品を販売するリユースも進めています。販売会には長蛇の列ができ、多くの人が「ホテルの歴史を持ち帰る」体験を楽しみました。担当者も「環境のために始めたことが、結果的にお客様とのコミュニケーションになっている」と手ごたえを語ります。不要になった物品が新しい持ち主に渡ると同時に、ホテルと地域の絆も深まっていきます。

リユース食器販売会の様子

間仕切りからツリーへ。アクリル板第二の人生

コロナ禍で街のあちこちに登場したアクリル板。透明で軽く、割れにくいことから飛沫防止の仕切りとして広く使われました。

ホテルにも大量のアクリル板があり、処分に困る存在となっていました。そこでホテルとCPQ、川内商工高等学校の生徒たちが協力し、新たな活用法を模索しました。アクリルはガラスより透明度が高く(透過率約93%)、美しい光を通しますが、表面は傷つきやすく、熱や衝撃に弱いという“繊細さ”を持つ素材です。カッターやレーザーで比較的容易に加工できますが、力をかけすぎると割れたり摩擦熱で白濁したりするため、丁寧な扱いが欠かせません。生徒たちは慎重に作業を重ね、やがてアクリル板はクリスマスツリーのオーナメントやクローク札へと生まれ変わりました。間仕切りだった透明な板は、人々の時間を彩るアイテムとして新たな輝きを放っています。

こうした取り組みは単なる「不用品の廃棄削減」を超え、ホテル体験を拡張し、社会に開かれた価値を生み出しているといえます。

アクリル板のよさを活かすツリーのデコレーション

体験を通じて次世代へ

循環の価値を伝えるには「体験」するのが一番。城山ホテル鹿児島では夏祭りやイベントを通じて、子どもたちが食品残渣を活用した料理作りに挑戦できるプログラムを用意しています。

「楽しく学べるからこそ記憶に残る。ホテルという空間だからこそできる発信です」とスタッフも力を込めます。また、ロビーコンサートでは鹿児島の環境アート団体「irohibiki(色響)」による公演も行われました。メンバーが海に流れ着いたゴミを楽器に仕立て音楽を奏でるユニークな取り組みで、廃棄物が美しい音楽に生まれ変わる瞬間、聴衆に確かな気づきが生まれます。音楽を通じてホテルの「循環」というテーマと共鳴し、環境意識を促すひとときとなりました。文化イベントを通じ、ホテルは地域とサステナブル価値を分かち合う「循環の輪」を広げています。

海外ゲストが求める価値観

世界各国から訪れるお客様を迎える城山ホテル鹿児島。環境意識の高い海外ゲストから学ぶことも多いといいます。「水の提供方法ひとつにも気づかされます」と矢野社長。「例えば、海外のお客様はペットボトルより瓶入りの水を好まれる。瓶の方がサステナブルで、すなわちラグジュアリーだという価値観が浸透しているのです。循環することが豊かさにつながる、という文化をホテルにも求められるのです」。瓶の重みや冷たさを「特別な体験」として尊ぶ感覚は、循環が新時代のラグジュアリーとなっている証ではないでしょうか。

未来への展望

「ホテル単体でできることには限界があります。だからこそ地域やお客様と一緒に、循環を文化として根付かせたい」と矢野社長。mottECOによる食品ロス削減、食品残渣の堆肥化、食器や美術品のリユース、不用品のアップサイクル、体験イベント、海外ゲストからの学び――すべては「循環型社会をホテルから実現する」というビジョンにつながっています。今ある資源をしっかりと使いきり、次につなげ循環させる。「サーキュラーエコノミーこそが今の時代のラグジュアリーであるというメッセージを、城山ホテル鹿児島から発信していきたいと思います」と、矢野社長は笑顔で締めくくりました。

おわりに

城山ホテル鹿児島の挑戦は、ホテルを「宿泊の場」から「地域循環の拠点」へと進化させるものです。矢野社長の決断力と現場の挑戦が相まって、サステナビリティは“日常に引き戻すもの”ではなく、“未来のラグジュアリーを形づくるもの”へと昇華しました。観光と環境の両立。その姿は鹿児島から全国へ、新しいホテルのあり方を力強く示しています。