インタビュー記事      

SGムービング×CPQ

「心をもって『運ぶ』を創造する」—SGムービングが描く、物流の未来

環境意識の高まりとともに、物流業界の役割は大きく変わりつつあります。単にモノを届ける「動脈物流」だけでなく、使用済み製品や廃棄物を回収し、資源として循環させる「静脈物流」の重要性が増しています。SGホールディングスグループの一員として、事務所移転や大型商品輸送を担うSGムービング株式会社は、「心をもって『運ぶ』を創造していく」というビジョンを掲げ、この動脈・静脈物流の融合によるサーキュラーエコノミーの実現に注力しています。今回は、その具体的な取り組みや未来への展望について、角本高章社長にお話を伺いました。

代表取締役社長 角本高章

顧客視点から生まれた環境への配慮

SGムービングのビジョンは「心をもって『運ぶ』を創造していく」です。ここには「社員一人ひとりが意思を持ち、顧客視点で新しいサービスを生み出す」という思いが込められています。

お客様の期待を超える提案を続けるなかで、必然的に環境への配慮が求められるようになりました。輸送効率の向上による燃料削減やコスト抑制、養生資材の工夫による廃棄物削減、そして静脈物流と呼ばれる廃棄物関連事業への挑戦。すべては『顧客の期待に応える』という原点から派生した活動であり、結果として環境負荷の低減へとつながっています」と、角本社長は語ります。

SGホールディングスグループ全体では、四半期ごとに役員が参加するサステナビリティ委員会を開催し、環境課題への対応を協議しています。そこで決定された方針は各事業会社へと展開され、SGムービングでも事業に即した取り組みを進めています。グループの総合力を背景に、持続可能な物流の形を模索し続けているのです。

循環型物流とCPQとの出会い

環境意識が高まるなか、SGムービングは早くから静脈物流の確立に注力してきました。全国に広がる輸送インフラを強みに、廃棄物の回収・資源化に積極的に取り組んでいます。

「様々な企業との協業を検討する中で、サーキュラーパーク九州(CPQ)の産官学連携の取り組みを知り、社会課題の解決に向けて大きな前進を感じました。両社が持つリソースやインフラをシェアすることで、循環型社会に貢献できると考え、協働体制を築くことになったのです」。

この協働により、両社の事業成長と同時に、環境に配慮した循環型社会への構造改革が加速すると期待されています。角本社長は「ネットワークを広げることで賛同する企業や自治体を増やし、一社では成し得なかったことを官民連携で前進させたい」と力を込めます。

動脈・静脈物流の融合は、深刻な人手不足に直面する運送業界や産業廃棄物業界にとっても、新しい物流モデルの可能性を示すものとなっていくでしょう。

堅い握手を交わす角本社長(左)とCPQ春木社長(右)

コラム:動脈物流と静脈物流

物流はしばしば「人体の血流」に例えられます。工場から消費者へ商品を届ける動脈物流。使用済み製品や廃棄物を回収し再資源化へ導く静脈物流。これまで両者は別々の仕組みで動いてきました。SGムービングとCPQの取り組みは、この二つを結びつけ、「運ぶ」だけでなく「戻す」仕組みを一体で整えようとする試みです。これにより物流は、消費の終わりを次の生産の始まりへとつなぐ循環の血流となるのです。

SGムービング×サーキュラーパーク九州による循環型物流モデル

リユースから再資源化へ

SGムービングは、不用品の再資源化やリユースにも独自の工夫を凝らしています。パートナー企業と連携し、オークションサイトを活用した国内販売や、メイドインジャパンのブランド価値を活かした海外輸出を推進。さらに小型家電は特殊技術で破砕・分別することで廃棄コストを抑え、資源の有効活用を進めています。「単なる処理ではなく、次の価値につなげることを意識しています。国内で再流通させたり、海外で新しい需要に応えたりする。そうした循環を目に見える形にし、地域の皆さまに実感していただくことも大切だと考えています」。

地域とともに築く循環の輪

SGムービングの取り組みを特徴づけているのが、全国自治体との連携です。現在、182の自治体と協定(2025年10月時点)を結び、大型家電の回収サービスを展開。

角本社長は次のように語ります。

「家庭で出る大型家電は、処分に困るものの代表例です。自治体と連携し、住民の身近な場所で回収できる仕組みを提供することは、地域の安心を支えることそのものです」。

GIGAスクールなど教育現場との協働も含め、地域ごとに異なるニーズへ柔軟に対応。2024年度には全都道府県で産業廃棄物収集運搬の許可を取得し、運搬会社が少ない地域でもインフラ維持を担う体制を整えました。地域に根ざした細やかな対応が、住民との信頼を育んでいます。

SDGsを組織文化に根付かせる

SGムービングが特に重視しているSDGsの目標は、3「すべての人に健康と福祉を」、12「つくる責任つかう責任」、そして5「ジェンダー平等を実現しよう」、8「働きがいも経済成長も」です。安全・安心なサービスの提供、環境に配慮した事業推進、多様性を尊重した組織づくりを通じて、社会的責任を果たしています。

環境活動におけるKPIや評価指標は、経済活動とのバランスを考慮しながら設定されています。「事業性のない活動は長続きせず、従業員のモチベーションも下がってしまいます。理念を現場に根付かせ、従業員の誇りややりがいにつながる取り組みにすることこそが、持続性の源泉です」と角本社長は強調します。

社内への浸透を図るため、年2回の環境セミナーを実施し、全社員が環境課題について理解を深める機会を設けています。さらに四半期ごとの社内サステナビリティ委員会では、管理職や拠点長が環境に関する取組みについて進捗を共有し、取り組みの定着を図っています。

笑顔の角本社長

次なる挑戦 ― 技術と市民協力

SGムービングが今後重視するのは、国内での資源循環をさらに強化することです。「日本の限られた資源を適切に循環させるため、まずは国内でのリサイクル率を高めていきたい。これは全国インフラを持つSGホールディングスグループだからこそできることです」と、熱く語る角本社長。

その実現に向け、環境省や経済産業省と連携し、再資源高度化法に基づく戦略を描いています。さらに廃棄物業界では遅れがちだという技術革新にも目を向け、AIやIoTの活用を模索。研究機関や大学と意見交換を重ね、効率的な分別や回収の仕組みづくりに取り組んでいます。

一方で、企業努力だけでは限界があることも率直に認めています。「適切な分別や排出は、市民一人ひとりの協力が不可欠です。環境先進地である欧州の事例も参考にしながら、自治体同士の横の連携を強化し、官民一体となった取り組みを進めていきたい」と角本社長は語ります。

物流が開く循環型社会への扉

SGムービングは、「運ぶ」だけの物流から一歩踏み出し、「循環を生み出す物流」へと進化を遂げています。企業理念に根ざした環境配慮、自治体や地域との厚い連携、そしてパートナーシップによる動脈・静脈物流の融合。その挑戦は、日本の循環型社会の実現に向けた確かな歩みとなっています。「循環は次世代の社会基盤です。全国に確固たるネットワークを持つ私たちだからこそできることを、地域とともに形にしていきたい」。物流はサーキュラーエコノミーを支える力になれる。角本社長の情熱が、物流を新たな境地へとリードしていきます。